2007年 8月 ○○日

だいぶ間が空いてしまった…。
と言うのもプロデューサーが就いてから今まで。
午前中は勿論、夕方や夜になるまで営業回りやレッスン漬けで
体力に自信のあったボクも流石に家に帰るとご飯を食べて
シャワーを浴びる以外の体力は残ってない事が殆どだった。
でも、そのお陰で自信と技術が身に付いたのか
出るオーディションには負ける気がしなかった。
今日も一つ番組の出演を終えて家でこれを書いてる。
ボクも徐々に他の皆に追いついてきてるのが今は何よりも嬉しい。
このままの調子で行けばきっとすぐにでもみんなと同じ様にトップアイドルとして
ステージに立つ事が出来る筈!
だったんだけど…。



パチンと手を叩く音が室内に響き渡る。

「はい、今日のレッスンはここまで!まことぉ、いいわよぉ。す〜ごい良くなって来てるわぁ、感心しちゃう♪」
ダンスレッスンの先生が真に声を掛ける。

「はいっ!ありがとうございます!」
肩で息をしながらも真は精一杯大きな返事を返す。

「ほんっっっっとそう言う所も好きよぉ、きっと良いアイドルになるわぁ♪」

「そうですか?えっへへ」
真は照れて赤くなる顔をタオルで拭った。

「でもちょっと頑張りすぎね。確かに体力はある方だけど休む事も重要なの、アイドルにはね」

「あ…はい。解ってはいるつもりなんですけど、やっぱりボクにはこれしか取り得が無いから…」
そんな真を見て先生は溜息混じりで話し始めた。

「そんなこと無いわよぉ、ダンスの才能だけでも十分なのにそんな真っ直ぐな目標と心があるじゃない」

「え…あ、その。もぅ…やだなぁ」
真は先生の言葉に耐え切れず赤面する顔をタオルで隠した。

「ちゃんとプロデューサーの言う事聞くのよ?」
その言葉に真は頷いて見せた。

「はい。それじゃあ有難うございました!」
レッスンの先生に軽く頭を下げると真はレッスン場を後にした。

その足でプロデューサーを探す。

「んん?煙草でも吸いに行ってるのかなぁ」
喫煙所のコーナーまで来るとプロデューサーの姿が見えた。

プロデューサーはベンチに腰掛けて祈る様に手を顔の前で合わせて俯いていた。

近くの吸殻入れには火が点けられたままの煙草が細長い紫煙を浮かべていた。

「終わりましたよ、プロデューサー」

「…」
声を掛ける真に対してプロデューサーは聞こえてないのか返事をしなかった。

「プロデューサー!」

「え…あ、あぁ。ごめん、お疲れ。真」
ようやく耳に入った真の声にプロデューサーは気の無い返事をした。

「どうしたんですか?なんか疲れてる様にみえますけど?」
プロデューサーの顔を覗きこむ真の視線を避ける様にしてプロデューサーは顔を背けた。

「いや、ははは。大丈夫だよ。それより、真。明日のオーディション一件取ってきたけどどうする?」
プロデューサーの言葉に敏感に反応して真の顔はパァッと明るくなった。

「ほんとですかぁ!?やーりぃっ!出ます!絶対受けます!」
満面の笑みで二つ返事をする真を見つめながらプロデューサーは満足そうに頷いた。

「まぁ、反対の返事は最初から期待してなかったんだけどな。疲れてないのか?」

「全然!平気です!第一ボクが仕事を断るわけ無いじゃないですか!」
そう言うと真はへへんと自慢げに仁王立ちしてみせた。

「そうだなっ!じゃあ今日はこの辺にしておこうか」
そう言うとプロデューサーは手に持っていた手帳にペンでシャッと線を引いた。

「えっ?でもこの後、ポーズレッスンとかあったと思いますけど」
不思議がる真の言葉に対してプロデューサーは苦笑した。

「明日、オーディションなんだから、少しは体を休めてくれ…」
困り顔のプロデューサーを尻目に真は不満そうな顔をしている。

「はぁ…半休なんだ。嬉しくないのか?」

「ん〜嬉しいし、でもレッスンはしたいし…うーん、複雑」
やれやれと言った感じで真を見つめていたプロデューサーが不意にポンと手を叩いた。

「あ、そうだった」

「んん?」

「仕事ならなんでもいいのか?」
不意なプロデューサーの質問に真は返事に詰まった。

「えと、うーん。まぁ、休みを何もしないで過ごすよりは…」
その言葉にプロデューサーはニコリと微笑んだ。

「じゃあちょっと出掛けよう!」

「え?えっと何所にですか?」

「いいから、早く着替えてくるっ!5分以内!」
プロデューサーの言葉に真は慌てて駆け出した。

「は、はいっ!」


5分後

「プロデューサー、着替えて来ましたー」
相変わらずボーイッシュな普段着の真にプロデューサーはどっかのメジャーリーグのチームの帽子を被せた。

「真もアイドルなんだから、少しは周りに気を使う」
その言葉に真はシュンとしてしまった。

「う…ごめんなさい」

「別に悪い意味で言ったんじゃないぞ」

「じゃあ、どういう意味なんですか?」

「真ももういっぱしのアイドルなんだ。街にふらふらっと出掛けて見つかって人だかりが出来た日にはもう目も当てられないからな」
プロデューサーの言葉の意味を理解した真は改めて感心した。

「プロデューサー…今後、気を付けます」

「解ればよろしい、ほら行くぞ」
そう言うとプロデューサーは真の手を握った。

ドキッ

「え…?」
不意に握られた手に胸が高鳴った。

フワッと宙に浮いた様な感覚が胸の奥をかすめた。

プロデューサーに連れられて歩いてきたのはショッピングモールだった。

夕方に着いた所為かそれほど混んでいる訳でもなくどちらかと言うと少し閑散としていた。

周りに見える人の殆どが男女のペアだった。

(い、いいのかな…こんな…)
周りの雰囲気に少し圧倒されつつ真はちらりとプロデューサーの顔を覗きこんだ。

プロデューサーも特に決めた場所も無いらしくショーウィンドウを歩きながら覗いてる程度だった。

(プロデューサー、何か今日はカッコいいな…こんな風に歩いてたらボクも女の子らしく見えるかな…)
自分で考えていて恥ずかしくなる反面、高鳴っていく鼓動にすこし嬉しさを感じていた。

(これって…ある意味。ていうか、デート…だよね)
真にとって男性と二人きりで歩く事は今まで殆ど無かったし、ましてや休みを利用して出掛ける事など一度も無かった。

「真?」
声を掛けられ慌ててプロデューサーから視線を逸らした。

(み、見てたのばれちゃったかな?)
「は、はい!」

「何か気を引く物とか無いのか?この服いいなぁとかこれ可愛いなぁとか」

「えっと」
プロデューサーの言葉に慌てて辺りを見回す。

正直プロデューサーばかりを見ていて周りの店などこれっぽっちも目に入っていなかった。

「うーん………あ」
今度は店を見ながら歩いていると一つの雑貨店が目についた。

「ここ、寄っても良いですか?」
真の言葉にプロデューサーは足を止めた。

「いいよ、見といで」
プロデューサーの了解を得て真は一人、雑貨店の中に入っていった。

「色々あるなぁ…」
店内には部屋を装飾する飾りから女性用の服、さしては他の国の民族衣装までもが陳列されていた。

良く見かけるパワーストーンが小分けにされて置いてあったり、オリエンタルな木の置物が置いてあった。

「あ、このアクセ可愛いなぁ。これ、窓に飾ったら良いかも…」
フラフラと歩いていると一つの小物入れが目に入った。

「これ可愛いなぁっ♪」
真は黒い猫の顔をしたゼンマイ付きの小物入れを持ち上げるとパカリと蓋を開けた。

中を開けるとオルゴールになっていたのかポロポロと音が鳴り出した。

「うわぁ良いなぁ、これ」
それが置かれてあった所の値札を見る。

(うわっ、これこんなにするんだ)
まじまじと見てみると小物入れの割には確かに高級そうな木が使われていて彩色も凝っていた。

「どした?」

「おわっつ!」
驚いて落としそうになった小物入れを掴み取り胸を撫で下ろす。

「ほぅ…」

「それが気に入ったのか?」
プロデューサーの言葉に真は苦笑した。

「良いなって思ったんですけどね、ちょっと手が出そうに無いです」
プロデューサーはその小物入れをチラッと一瞥すると再び真に声を掛けた。

「そっか…」
何かを考えてる様子のプロデューサーをちらりとみると真は振っ切る様に声を掛けた。

「行きましょう!ボク、お腹空いちゃいましたよ!さっきのレストランでご飯食べませんか?」

「うん、ちょっと先に行っててくれ。トイレ借りてくるから」

「はーい」
3分程プロデューサーを待ってレストランに入る。

幸い待ち時間等は無くすぐに席に通された。

「ここは俺が持つから好きなの注文していいぞ」

「やーりぃ!プロデューサー太っ腹!じゃあねぇ…」
プロデューサーは真の些細な変化に気付いていた。

言葉遣いがウィンドウショッピングをした所為かほんの少しだけ女の子らしくなってきていた。

「このハンバーグとサイコロステーキの奴で!」

「そんなに食べて、太るぞ」

「大丈夫ですよ!それだけ動きますからっ!」

「それもそうか…」

食事を取りながらまた正面に座るプロデューサーの顔をチラチラ覗きこむ。

(これって、やっぱりデートだよね…うぅドキドキしっぱなしだよぉ!)
何を話して良いのか解らず真は黙々と食事を続けていた。

(あれ…でもボクはデートだと思っててもプロデューサーがそう思ってなかったら…そう言えば来る前、「仕事なら」って言ってた様な…)
急に不安な気持ちがよぎってきた。

(う〜〜ん…)

「真」

「は、はい」

「食べながらで良いから聞いてくれ」
その言葉に真は頷いて見せた。

「これまでそうだったようにこれからもレッスンとか仕事がある。むしろ増えていくだろう」
真は黙ってプロデューサーの話を聞いている。

「一つだけ約束してくれ」

「…」

「肉体的にも、精神的にも辛いと思ったなら相談してくれ。そう言うときはちゃんと休んでほしいから」
プロデューサーの発言はいつも不思議と優しさが感じられた。

プロデューサーの声がそうさせているだけなのかもしれないけど、何か心を暖かい気持ちにさせてくれる効果が真には感じられた。

「はい、約束します。えへへっ」
改めてプロデューサーが心配してくれている事が素直に嬉しかった。

「よし、じゃあ明日のオーディションも頑張ろうな!」

「はい!」

「何か質問とかあるか?聞いておきたい事とか」

(これって聞いて良いものなのかな…)
「あの…」

「ん…?」
聞く内容が内容だけに真は恥ずかしさを抑え切れなかった。

「あ、あのですね…き…今日のここここの状況ってっ…デー…」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!まこちーーーーーーーーーん!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!まこちーーーーーーーーーん!!」
聞き覚えのある舌っ足らずな二重奏が聞こえてきた。

「あれって…」
驚いてそちらを向くと亜美真美の二人がこちらに走り寄ってきた。

「ひっさしぶり〜まこちん」
「ねぇねぇ、こんな所で何してんの〜?」
「まこちん、このにぃちゃんだぁれ〜?」
「んっふっふ〜、もしかしてまこちんのー…」

「これはもしかすると、ねぇ?真美さん」
「もしかするんじゃないですかぁ?ねぇ、亜美さん」
機関銃の様にまくし立てると亜美真美は顔を見合わせてニヤニヤしている。

「こぉら、亜美真美!大人しくしなきゃダメでしょ!」
またも聞き覚えのある声が聞こえてくる。

今度は楕円形のサングラスを掛けた女の子が亜美達に近寄ってきた。

「レストランで走るんじゃないわよ、まったく…あら、真?」
女の子はサングラスをパカッと開いた。

「律子!?」
驚いて声を上げると律子が人差し指を唇に当てた。

「しっ!一応お忍びなのよ…あの二人がいるといつもああだけどね…」
やれやれといった感じで律子は二人を見つめる。

亜美達は壁際の席に座りメニューを開いてあーだこーだ喋っていた。

「3人一緒って事は”フィズ”で来てるの?」
”フィズ”と言うのは亜美真美と律子のユニット名だった。

「そうよ、たまにはプロデューサーにご飯でもおごって貰わないとね」
律子が笑うと一人の男性が近づいてきた。

「律子、知り合い…あぁ、真ちゃんじゃないか」
律子のプロデューサーが真に声を掛ける。

亜美真美の怒涛の喋り倒しに圧倒されていた真のプロデューサーが慌てて会釈する。

「っと、そちらも同じですか」
律子のプロデューサーがそう言うと真のプロデューサーはその言葉を軽く否定した。

「あはは、多分ちょっと違いますよ。あの子達は元気ですね」
真はプロデューサーが何故否定したのかが解らなかった。

(ちょっと違うって…どういう意味だろ?)
プロデューサー同士で話しあっているのを見つめながら真は考えていた。

二人は何か打ち合わせをしているようだった。

「大人の事情って、大変よね」
律子が笑いながら言う。

「そうみたいだね」

「じゃあ、私も席に着くからまた今度ゆっくり話しましょ」

「うん、またね」
律子が席に着くと話し終えたプロデューサーが真に声を掛けた。

「少し食休みしたら出ようか?」

「あ、はい」
店を出てプロデューサーは真を送り届ける。

「明日は事務所に集合して会場まで送る様にするから」

「はい、じゃあ事務所に行きますね!」

「うん、よろしく頼むな!」

「はい、じゃあおやすみなさーい」
真が家に入るのを確認してプロデューサーも帰路に着いた。

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